「最悪」 奥田英朗
「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「サウスバウンド」など、これまで読んだ奥田作品のイメージを一掃する大作だった。
奥田英朗といえば、強烈なキャラクターをもつ登場人物が物語をぐいぐいひっぱっていくイメージだったんだけど、
この作品の登場人物、とくに主人公の3人は、どこにでもいるような平凡なキャラで、個性も自己主張もほとんどない。
そして、物語そのものも3人のそれぞれの日常を事細かに淡淡と描写し、退屈なまでにその日々の描写は延々と積み重なっていく。
どこにでもあるような日々の退屈さ、その中で積み重なっていく悪い出来事、疲弊していく心。
淡淡としているがゆえに、負のスパイラルは抜け出しがたく、どんどん最悪の方向に向かっていく。
なんでこんな、ありふれた退屈な物語に引き込まれていくんだろう。
退屈感を覚えながらも、気持ちはぐんぐん引っ張られていき、いつのまにか夢中になっている。
まったく無関係だったはずの3人が、最悪に向かえば向かうほど、ある点で交わっていく。
そしてクライマックス、どんでん返し。
ここで初めて3人のキャラクターは、生き生きと自己主張を始める。
それまで無味乾燥だった主人公たちは、一挙に奥田小説キャラらしい色を噴出する。
なんという巧妙な仕掛け。
これが奥田英朗の真骨頂だったのか。
これは推理小説ではない。
時系列にそって淡淡と進む物語は、推理もどきどき感もなんもない。
奇想天外な犯罪小説でもない。
トリックもないし、凶悪残忍な犯罪シーンもない。
でも、それが奥田ワールドに色づけられると、こんなすごいことになってしまうのだ。
すばらしい。
by shu
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