海炭市叙景

2011年03月03日

日々の暮らしに疲れ、よどみ、すり減っていくうちに、たいせつなものを失っていく人々が主人公。
そしてまた、そんな人々がすれ違いながら生活を紡いでいる"海炭市"そのものも主人公だといえる。

景気も悪く、人間関係も狭く膠着し、およそ暮らしていくには快適とは言いがたい地方都市。
でも、ここに出てくる人々は、決して海炭市から出て行こうなどとは思ってはいない。あるいは、そういう発想がないのか。
いろんな不満を抱えながらも、海炭市に執着し、ある種の諦観をもって、そこで生きていこうとしている。

それは、ただたんに郷土愛などというストレートなものではないと思う。
愛も憎しみも様々な感情を孕んだ故郷への思い。
かつて確かにあった居場所に帰りたいという幻想。
身動きの取れない疲弊した現実。
それらが彼らを執拗に”海炭市”に引き止めているのではないだろうか。

だから物語は悲しい。
しかし、どこかに救いがあるようにも思える。

5つの物語が、シンクロし、かすかに交わり、すれ違っていくさまは、とても美しく描かれる。
戻りたい場所は"海炭市"にある。
けれど、決して戻れない。

多かれ少なかれ、誰にも思い当たる物語かもしれない。

余談だが、「海炭市叙景」というタイトルの字面と音の響きがとてもよい。
こういうのも映画の重要なファクターだと思う。

by shu

海炭市叙景


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Posted by sweetblues at 19:41│Comments(0)本・映画・音楽
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